「吾が西方の音」（２０）　　　　　　　　　　名曲名盤を求めて　　　　　　　２０１４１２２０
音楽評論家の吉田秀和氏のＮＨＫ追悼番組で「立派な再生装置でなくても演奏の本質は、理解できる。分からない人は、どんな良い装置でもしょうがない。」と述べられ再生音の改善に長年費やしてきた私の様な音楽の素人には、若干の疾しさを感じる。しかし音盤は、演奏家の意図を汲みとり演奏空間の雰囲気までも取り込む録音関係者の制作の結晶でありその様な音盤の十全な再生に最善を尽くすのは、聴く者の務めであり演奏家や制作関係者への尊敬の念を表す事と確信している。小澤征爾・村上春樹氏著「小澤征爾さんと音楽について話をする」では、小説家村上氏の深い音楽理解に感心したが「レコードマニアについて」の章で小澤氏が「某レコード店で周りを見ている間に、そういうものに対する嫌悪感がぶり返した」と言うくだりに様々な思いを巡らした。今迄の生演奏の体験は、日生劇場でのベーム指揮の「後宮からの逃走」日比谷公会堂でのヤナーチェック四重奏団、小澤征爾指揮の武道館での「第九」指揮者のホルシュタイン、オーマンデイ、ピアニストのアラウ、チェロリストのマイスキー等程度しか思い出さないし、本音を申せば他人に気兼ねなく自分の部屋で好きな時間に好きな演奏を好みの音量で楽しめる事に最高の喜びを感じる。しかも様々な一流オーケストラを抱え更に名演奏家を迎えて。半世紀前からそして今後も充実感を味あえるのは、他では経験出来ない事である。往年の名演奏を聴く事にだけに拘っているおりそれらを聴く手だては、音盤だけでありまだまだ聴きたい往年の名演奏が有る。但しＳＰやモノーラルＬＰのＣＤによる復刻版は、幾ら名演奏と言われてもステレオ盤ほどの感激が少なく、聴く気がしない。但しフルトベングラーのプライトクランク・ステレオ方式のシリーズは、唯一の例外である。疑似ステレオでもあるにも拘らず演奏会場に居る様な感覚を味あえる。相変わらず根強い人気のアナログ盤は、録音に含まれるノイズは、許容できるがスクラッチノイズが気になり処分した。全てのＣＤもより情報量の多いＳＡＣＤ盤に入れ替えた。演奏空間の空気感さえ感じさせる様に成るが、欲しい盤が限られるのがもどかしい。しかし手に入れた時の喜びは、倍加する。愛聴盤を探す為に、長年レコード芸術編「名曲名盤」「クラシック不滅の巨匠達」等を参考にしてきた。「名曲名盤」は、数年毎に改編され音楽評論家たちの投票によりベスト盤が選ばれる。だがこの様な方法は、果たして愛聴盤選びのベストか疑念を感じだしている。もしこのやり方を継続するなら、それぞれの評論家に推薦できない盤も上げて貰えば、各評論家の意図を探る手がかりになるかもしれない。文芸春秋編の宇野功芳・中野雄・福島章恭氏共著「クラシックＣＤの名盤」「演奏家編」は、３人が選考理由を上げて推薦盤を選んでおりその評価の違いが面白く愛聴盤選びに大いに参考になる。「演奏家編」では、私の好きな指揮者ライナー、ショルティ、デービス、ピアニストのグルダの名が挙がっていない。米国で活躍した指揮者のストコフスキー、オーマンデイの名も無い。外した理由を知りたい。又、推薦されているポリーニは、お三方の評価が低いのも意外である。同じ名曲が多くの演奏家の推薦曲にかたよるが、この本の性格上致し方無い事であろう。でも面白く読めた。レコ術の「名曲名盤」でも文春の「クラシックＣＤの名盤」でも様々な推薦盤があげられている。音樂評論家間に評価の違いがみられるのは、当然、個人の価値観の違いによる。従い、評論家の方たちには、何故に其の盤を推薦するのかを是非個性ある内容で読み手を魅了して欲しい。読者は、それぞれの記述の違いを楽みながら演奏を想像し時には、その表現から演奏を聴き愛聴盤を選ぶのだろうから。