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トーンアーム交換の紆余曲折(+アナログをめぐる二、三の感想) | 投稿するにはまず登録を |
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| 投稿者 | スレッド |
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| メリメロ | 投稿日時: 2026/1/18 16:13 |
常連 ![]() ![]() 登録日: 2019/5/14 居住地: 投稿: 70 |
トーンアーム交換の紆余曲折(+アナログをめぐる二、三の感想) メリメロです。
アナログディスクを聴く機会が減るにつれ、音の方も寂れたリゾートを思わせる状態になってきて、なんとかしなければと一念発起したのはすでに半年前のこと。プレイヤーのNottinghamは20年ほど使用してきたので、買い替えの時期ではという思いが一瞬頭をかすめはしましたが、ここはサスティナブルをモットーとする人間として、本体はそのまま残しトーンアーム部分だけを交換することにしました。いくつかハードルを超える必要があり、懇意のアナログ専門店Maestro Garage店主の冷静沈着なフォローなくしては成り立たない作業でしたが、これが終わって一息ついたところです。 新規トーンアームは生産中止のJelicoの製品、MG店主がストックをおさえてくれました。もとのストレートアームよりも動きが精密で滑らかです。 Jelicoに合うようなアームベースを用意する必要があったのですが、これもMG店主の尽力でNottingham社が制作してくれることになりました。製品改造に相当するのでダメと言われても不思議ではないと思っていたので、メーカーがこれを請け負うという知らせがあったときには少し驚きました。アームベース完成までかなり時間がかかりましたが、Nottingham社の名誉のために、仕上がりを見たMG店主が丁寧な仕事ぶりだとしきりに感心していたことを申し添えておきます。 ヘッドシェルに関しては、Acoustic Reviveのものは残念ながら完売とのことでしたが、それに代わるものとして、Fibona Soundのアフリカン・ブラックウッドを使った製品がお薦めだと管理人Kさんに教えてもらいました。Fibona Soundの増田さんは管理人Kさんと一緒にRHS-1を作られている方です。今回導入したモデルは、リード線にPC-Triple C EX φ0.6mm specialが用いられ、指かけ位置も三つの選択肢からひとつを選ぶという凝りようです。HP(https://fibonasound.base.shop)をご覧いただければ、その仕事ぶりがわかるはずです。 アナログケーブルはAcoustic ReviveのPC-Triple Cのベーシックなものを選びました(余談ながら、わが屋はベーシックを究めることを基調としてます)。MCトランスからフォノアンプまで、フォノアンプからプリアンプまでのラインケーブルはすでにAcoustic Reviveのものを使っていたので、トーンアーム内部の配線を別にすれば、これで電源ケーブルもラインケーブルもスピーカーケーブルも結線はすべて同社製品PC-Triple Cに統一されました。じつはトーンアーム交換の目的もここにあったのです。 アームやカートリッジの取り付けなどはMG店主にやってもらいましたが、側で見ていて、丁寧な仕事ぶりに感心しました(大詰めのところでFibona Sound提供のネジがOrtofonに合わずハラハラしましたが、なんとか手持ちのもので合うものを見つけ難を免れました)。作り手の顔が見えるアイテムの数々とそれを組み上げる技からなるアナログ独自の精巧さにあらためて不思議を感じたしだいです。 わが家のNottinghamはエントリークラスのモデルですが、ハムもハウリングもノイズがゼロに近いのが取り柄です。トーンアーム交換に限定という今回の方針もこの長所を活かそうと考えたからです。作業が一段落したいまは、無音部分の静寂がひときわ印象的で、場合によって、ほんとうにレコードが回転しているのかどうか確かめたくなるほどです。アナログスタビライザー(PS-DBLP)もこれにあわせて導入したので、ビフォア&アフターの比較が無意味なくらい、前後左右および上下にひろがった空間に堂々たる音が鳴り響くようになりました。ボード(RAF-48H)にNottinghamを載せ、上からPS-DBLPで抑えた姿は、Fibona Soundのヘッドシェルも完全にそこに溶け込んで、全体が黒の衣裳をまとったオーダーメイドのように一体感があって絵になります。写真なしでゴメンナサイ。 現金なものです。ひと月前までは聴くのはCDばかり、いまはLPばかりです。 昨年春に五反田でアレクセイ・リュビモフを聴き(引退宣言後のリサイタル!、プログラムはシルヴェストロフやドビュッシー)、やはりユニークで懐の深いひとだと認識をあらたにしました。いまはCD録音以前に遡ってMelodiyaレーベルから出たLPを盛んに聴いているところで、ワクワクの連続です。 すでにリュビモフは1970年代から80年代半ばにかけてチェンバロでクープランを弾くかと思えば、ピアノ(スタインウェイ?)でストラヴィンスキーやウェーベルンやアイヴズなどを弾いていて、平然とごく自然にそれをやってのけているのがなんとも爽快です。ウェーベルンの変奏曲など、トーンアーム交換以後は、無音部分が驚くほど深いものとなり、点描のように空間に投げ出される響きがクリスタルのきらめきとして聞こえてきます。ウェーベルンは、むしろそのまま感覚的に、さらには官能的に受け止めるべき硬質でなまめかしい音楽だという気がしてきて、その意味でも爽快です。 この時期のものには使用楽器がHammerklavierと記された謎めいたものもあります。モーツァルトの幻想曲K475およびソナタK457を入れた一枚(Melodiya/1985)で、Discogの表記ではHammerklavier(Piano)となってますが、実際に聴いてみると、これはピリオド楽器、いわゆるフォルテピアノです。よく響く楽器で、迫力もあります。その後1990年代にEratoレーベルから出た同一曲の録音に用いられている楽器(Anton Walterのレプリカ)よりも響きに解放感があります。たぶん別のものなのでしょう。ひょっとするとモーツァルトや「月光」ソナタを入れたCD(Art&Electronics/1989)で用いられているのと同じ楽器かもしれません。こちらも音に解放感があるとともに、一定の音域が鼻にかかったような独特のひびきになるのが似てます。どちらも今日風にライナーノートに詳細な楽器の来歴が記されているわけではなく、自分の耳でわかるのはそれくらい。文字情報がない分、想像をたくましくせざるをえないので、脳トレになりそうです。ピタリと使用楽器を言い当てる達人がどこかにいそうですが、自分には無理。それでもある程度の見当がつくようになったのは、トーンアーム交換の紆余曲折の努力が実ったのだと思うことにします。 かねてからモーツァルトのハ短調ソナタは、冒頭の和音とその推移がオペラ『ドン・ジョヴァンニ』(こちらはニ短調)の予告のように聞こえると思っていました。リュビモフのアルバムを繰り返し聴くうちに、それだけではなく、アレグロ楽章の右手と左手がたがいに相手を追いかけるような動きがソプラノとバス、あえて言えばドンナ・エルヴィーラとドン・ジョヴァンニとのやりとりみたいに聞こえてくるのに気づきました。こんなふうに、演奏の息遣いや機敏にじかに触れる思いが強まるあたりにもトーンアーム交換の影響がおよんでいるといえそうです。 と思ったところで、そういえば若き日のピーター・ゼルキンが同じ曲を弾いたLP(RCA/1969)があったのを思い出しました。久しぶりに聴いて愕然としました。かつての自分は何も聞いていなかったにひとしい、と気づきました。ピーター・ゼルキンが弾くK475のテンポは異様なまでに遅く、11分55秒のリュビモフに対して19分10秒もかけてます。おなじく異様に遅いアファナシエフでも16分24秒です。これだけデフォルメされると、もはやK475とは別ものだと思うひとがいても不思議ではありません。 それでいて、これがピーター・ゼルキンのモーツァルトだったのか、と妙にひとを納得させるだけの力を感じました。期せずして彼の最後の日本公演となった演奏会(すみだトリフォニーホール)はモーツァルトのアダージョK540で始まりましたが、聴衆をおきざりにして、内側へ内側へと潜り込んでゆくような音楽を聴いた(聞かされた)気がして、演奏が終わっても拍手すべきなのかどうか躊躇したおぼえがあります。記憶がよみがえりシンクロが生じました。つまり久しぶりにLPを聞き直してみて、二十歳を過ぎたばかりのピーター・ゼルキンの録音に、最後のコンサートで自分が耳にしたのと同じモーツァルトがすでにあったと気づいた(あるいは気づいたと思い込んだ)わけです。違う曲なので同期というのも妙な話ですが、すれ違いが出会いをもたらすのか、それとも出会いとすれ違いは紙一重で、半世紀を超える時間のゆらぎがもたらす一瞬の幻のようなものだと考えるべきなのか決めかねます。いずれにしても時空のへだたりを一挙に無化するような体験に遭遇することがあり、その種の音楽体験は、CDやストリーミングではなく、なぜかアナログによって誘発されることが多いようにも感じられるのです。 ピーター・ゼルキンは1984年から87年にかけてフォルテピアノ(コンラート・グラーフ)を演奏するアルバムを立て続けに録音しており(なかでもベートーヴェンのソナタHammerklavierの録音がひときわ狂おしく耳に響きます)、リュビモフとのシンクロを感じさせなくもないですが、ここはもっと未来を感じさせる話でしめくくることにします。数年前から七條恵子さん(Acoustic Revive Classicsレーベルからサティのアルバムが出てます)がブリュージュ国際古楽音楽コンクールのフォルテピアノ部門審査員を務めているとのこと。彼女の前はリュビモフが審査委員だったはずです。かねてから七條さんのCDアルバム、とりわけBEETHOVEN 1802と題するアルバム(ET’CETERA/2019)にリュビモフへの贈答歌めいた雰囲気、あるいは本歌取に近い何かを嗅ぎとっていたワタクシには、まさしく記念すべき、そして歓ばしきバトンタッチだと感じられます。 |
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メリメロ | 2026/1/18 16:13 |
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あじなめろう | 2026/1/18 20:18 |
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