吾が西方の音」（２１）　　　　　　　　クラシック演奏の今後　　　　　　　２０１５０１２０
再生装置が奏でる演奏に満足して浸れるようになり最近は、クラシック演奏関連の書籍に関心が移っている。欧米の音楽事情を知る為、中野雄氏著「ウィーン・フィル音と響きの秘密」を紐解いた。700年続いたハプスブルク王朝の文化の象徴の宮廷歌劇場(現在、国立歌劇場)楽団が、ウィーン・フィルの母体であり、独特なウィーンの響きと演奏の質を保つ為、団員は、生まれも学びもウィーンであり、楽器も奏法もウイーンで有る事を原則としている。団員には、優れた音楽家で一流の人間であり協調性を具える事も求められ長らく常任指揮者をおかない自主運営の集団である。楽団が持つ複数の室内楽での演奏で「音の対話」の体得し、オーケストラでの演奏時にも自主性を発揮する。今後もこの伝統の響きを保てれば、栄光の日々は続く。歌劇場とウィーン・フィルの存在により「音楽の街ウィーン」として息をしており、無くなれば単なる「歴史遺産の街」に成りかねない。しかし20世紀後半からの情報伝達と輸送手段の発達により演奏の標準化が進み世界に通用する文化を持たない国が、金の力で音楽の分野でも主導権を握り演奏の質を変貌させ、外形整然、内容空虚な表面的な美しさの追及が世界に蔓延しようとしている。差をもって尊い文化の世界に均質化を持ち込み衰退の道を歩んでいるという。山田真一著「オーケストラ大国アメリカ」によると、戦前戦後、ヨーロッパの名指揮者達が米国に渡り強烈な個性と厳しい指導で一流のオーケストラに育てあげてきた。コンサートを聴きたいと望む市民が「オーケストラ協会」を作り、寄付や出資した人の中から経営に当るという地域社会に密着した仕組みは、先ずシカゴ交響楽団で実行された。この財政基盤の安定化を齎す仕組みは、新設、既存のオーケストラに受け継がれ「定期演奏会」で積極的に新作品にも取り組めるようになった。聴衆拡大の為の経営戦略が策定される。理事会は、無給ボランティアであるにも拘らず活動目的を策定しその実現に責任を持ち、現場へ演奏水準が下がらないように要求をだす。更に、自分たちの活動を社会に広げる努力をし、その結果、地域がオーケストラを支援し続ける要因になり、今日までオーケストラの活動は高い演奏力を誇り聴衆も増えているという。今後も輝かしい歴史を作る力に満ちているという。両氏の見解が異なるが、今後どの様な演奏が主流に成るかは、聴衆の感性によると思う。他国の楽団は、米国楽団の経営理念を見習い出来るだけ自立した楽団を作り貴重な文化遺産を守るべきである。近年「音楽の内容を表現する伝達手段である演奏技術が自己目的化」が主流に成りつつあると言う指摘を演奏家や聴衆は，どのように様に受け止めているのだろう。機械的な正確さと表面的な美しさの追及は、やがて映画のＣＧによる迫真のシーンの様に、コンピュターターがオーケストラを演奏する時代がくるのでは、と危惧している。「鑑賞力養うには。本物に接し続ける事」という箴言は、耳にも当てはまる。音盤に関しては、ステレオ初期から７０年代の欧米の巨匠たちの名盤を楽しむ事が正解であると確信してきたが、「クラシック・ＣＤ２０世紀の遺産」には、SACD復刻盤の記載が無いのが寂しいが、ペジをめくる度に、音盤史と自分史を振り返らせる大変良い企画である。８０年代以降の現代の演奏も聴くようになり、又来日公演予定の米国のバイオリニストのヒラリーハーンが欧州のフイルハーモニア、指揮者のサロネンと。欧米の協演から現代の演奏を聴く事を楽しみにしている。ハーンの愛用ヴァイオリンは、「ヴィヨーム」の1864年製のパガニーニ所有の「Ｃａｎｎｏｎｅ」のコピーとか、関連して名器の誉れ高いストラリバリウスを調べると、音は、聴衆方向に広がる特性が有り、更に現代の演奏に合わせるべく改造されており、改造で強度が持たないヴァイオリンは消滅したという事実には、驚いた。