オーディオファイルが音楽鑑賞をする場合、クラシック音楽はほかのジャンルである、ジャズ・ロックンロール・ポップス・フュージョン・歌謡曲などと異なり、敷居が高く感じることが多いように見受けられます。
それはクラシック音楽が曲の長さだけでなく、固有の伝統音楽であるからとも言えそうです。
この「伝統」とは古くから聴き継がれてきた伝統があるという意味ではなく、「伝統的な形式に基づいて作曲された音楽」という意味なんですね。
まずは時代背景があります。
現在市販されている音楽CDなどは譜面が後世に残されているものから演奏者が研究し演奏するわけですが、だいたい10世紀頃の中世からルネサンス時代、その後のバロック時代、バロックの枠を抜け出したウィーン古典派時代、そして物語性に重きを置くようになったロマン派時代(ロマン派は初期と後期ではまるで音楽の様相が異なりますが)、そして20世紀音楽や現代音楽という大河のような流れの中で音楽がつくられています。
たとえばいくつか例を挙げますと、中世ルネサンス時代の音楽はポリフォニー(多声)音楽に基づいてつくられており、一つの曲の中で幾人もの演奏者(教会音楽の声楽が中心になります)が同時に違うメロディーを歌う−だから多声−という形式でできています。それとある一定速度で川が流れるように作曲されているのが特徴と言えましょう。
そして17世紀初頭からのバロック音楽は、メロディーラインを担当する楽器(声も含まれます)と、重低音のいわゆるベースパートを担当する楽器(通奏低音といいます)により、ルネサンス時代よりも劇的な効果を狙った、しかも奏者に任せられるアドリブ演奏が主体でした。イタリアでオペラがつくられたのもこの時代です。当然前の時代であるルネサンスからのポリフォニーな部分も発展形で取り入れられています。ですからバロック音楽は、基本的な作曲された音楽とともに解釈する演奏者により単純な譜面に奏者のインスピレーションを加味した演奏が内容の良否を分けることになります。その頂点に立つのがバッハの音楽と言われています。
そして現在コンサートで主流に演奏されるのが次の時代であるウィーン古典派以降の音楽です。クラシック音楽は基本的にはいくつかの楽章と呼ばれる作品の集合体ですが、これが体系的に完成されたのがこの時代になります。音楽の速さは急−緩−急−急ですが、これはバロック時代からすでにヴィヴァルディなどにより一定の完成を見ていますが、この時代の特徴としては「ソナタ形式」が挙げられます。交響曲などの第1楽章のほとんどはこのソナタ形式で作曲されています。このソナタ形式とは、おおまかに示すと第1主題と第2主題の提示部、展開部、再現部、コーダ、終結という形式です。これはなぜそのようになったのかは一般的には人間の感受性にとってもっともアピールする様式として琢磨されてきたと言えるでしょう。このソナタ形式の完成者がモーツァルトで、交響曲第41番「ジュピター」は完全無比なソナタ形式の典型です。その後ロマン派の時代に入りより物語性が重要視され、ソナタ形式も形を変幻万化させながら発展し、マーラーなどの後期ではほとんど形式を理解するのが困難なほど進化発展していきます。
交響曲に関してはアレグロ(速い)の第1楽章の後にアダージョなどの緩徐楽章がきて、第3楽章は3拍子のメヌエットやベートーヴェン以降はスケルツォ、第4楽章はロンド形式や変奏曲などの形式が基本となります。当然ロマン派以降は楽章数も増えてきたり、順番が入れ替わったりしています。
また協奏曲では、3楽章制が基本であり、カデンツァと呼ばれるオーケストラ抜きの独奏者だけで即興的に演奏される部分もあります。
このほか間接的ではありますが作曲家の作曲時期の個人的な生活背景、また作曲された時代背景(ベートーヴェンとナポレオンに由来する英雄交響曲など)なども、音楽をより深く理解する上でとても参考になると思われます。
以上雑ぱくですが、これからクラシック音楽を聴こうというオーディオファイルの参考になれば幸いです。また、誤った部分等があればご指摘ご訂正を願えればと思います。
書籍では、「クラシック音楽入門」や「西洋音楽史」などの文庫本などをお読みになるのが近道かと思います。
ところで、小難しいことはさておき、クラシック音楽にチャレンジしようとするオーディオファイル向けのこれはという1曲を紹介したいと思う。
これはmaroさんとの会話の中でも出たのだが、私自身が学生時代にクラシック音楽にハマるきっかけとなる強烈なインスパイアを与えられた音楽である。 それはベートーヴェン作曲のピアノ協奏曲第5番変ホ長調 op.73『皇帝』だ。
演奏は、現在手に入るもので演奏&録音とも申し分ない演奏として次の1枚を挙げたい。
ピアノ:クラウディオ・アラウ
指 揮:サー・コリン・デイヴィス
管弦楽:ドレスデン・シュターツカペレ
[1984年、デジタル録音、フィリップス]
とにかく音楽がカッコイイ。いきなり冒頭から華やかにピアノのカデンツァで威風堂々と、まさに肩で風を切って王宮を闊歩するようなたたずまいを見せるまったく隙のない、どこから聴いても名曲である。私はこれを聴いて胸が躍るような興奮を覚え、エキサイトした。「クラシックってカッコイイじゃない!」と。
瞑想的な第2楽章と切れ目なく第3楽章に突入する(アタッカという)のも聴き手を惹きつけずにおかない。まさにベートーヴェンの面目躍如たる名曲中の名曲で興奮ものである。
この曲を聴いて何も感じないような感性なら、クラシック音楽など聴くのはやめた方がいい。
併録された第4番も哲学的な瞑想に深く沈む曲で、まさに皇帝とは対照的な内省的な音楽で、これはこれでベートーヴェンの高貴な知性を感じる名品である。
リマスタリングも24bit、96Khzの高音質である。
ドレスデン・シュターツカペレとは、ドレスデンのザクセン州立歌劇場付きのオーケストラを指す。
是非、この演奏でなくても構わないが、皇帝協奏曲を聴いた感想をお寄せいただきたいものである。男ならまずはこれしかないでしょっ!
【参考・HMVのレビュー】
○巨匠アラウ晩年の至芸! ベートーヴェン『皇帝』
ベートーヴェン演奏の大家として世に知られたアラウ晩年の名演。作品造型を隅々まで知り尽くした巨匠ならではの表現の余裕が、聴き手に独特の充足感を与えてくれます。南米出身ながら、ドイツのピアニストもはるかに及ばないと謳われた重厚なピアニズムの健在ぶりは『皇帝』で存分に味わえますが、かつてのやや脂身の多い表現からスッキリとアク抜けた晩年の境地は、特に第4番での見通しよく澄み渡った世界の感銘深さに結実しています。
デイヴィスとドレスデン・シュターツカペレの見事なサポートも、どれだけ絶賛してもし足りないところ。特に『皇帝』における重厚な力強さ、奥深い味わいをたたえたサウンドには惚れ惚れと聴き入るばかりで、これぞドイツのオーケストラ、言いたくなるほどです。
ねっ、聴きたくなったでしょ(笑)?