ケミ様
皆様

明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いいたします。

さて、K様、ケミ様をはじめ皆様のレコード再生のイコライジングカーブに関する投稿は興味深く拝見させて頂いております。

そこで先日ケミ様が投稿された一文
「イコライジングカーブのマッチンッグは，体験された百人が百人ともわかる変化があります。好みがどうのこうのというレベルの話ではありません。」
に関しては「ちょっと言い過ぎではないか？」と思う面があり投稿させて頂くことにいたしました。要するにこの一文は読みようによっては「全てのレコード（LP)をRIAAで再生している人は本当の音楽を聴いていない。」となるからです。

もちろんK様、ケミ様のテスト試聴の結果を否定するものでは有りません。これだけは最初に申し上げておきます。

まず最初にこういうレコードの録音再生カーブが何故存在するかということです。それは高音に関してはノイズリダクション、低音に関しては歪みを避けることが目的です。レコードのヴィニル面を針でトレースすると無音溝でも「サー」というサーフィスノイズが再生されます。これを低減する為に録音する音楽の高音のレベルを上げて録音し再生時にレベルを下げることで結果としてノイズを低減できるという仕組みです。低音に関してはエネルギーが大きいのでそのままカッティングすると溝の蛇行幅が大きくなって針でのトレースが困難になり歪みの原因になることから低音のレベルを下げてカッティングし再生時にレベルを上げることで安定した再生音を得ようというものです。これは結果として溝間を詰める事が出来るので長時間録音にも貢献できることになります。

そして、テープの録音再生にも同じような録再カーブが存在します。目的と効果はほぼアナログレコードのカーブと同じで、テープには「シー」というテープヒスというノイズが存在しますし、低音の過入力は歪みの原因になるからです。Dolbyというノイズリダクションはこのカーブにさらに上乗せして独自の録再カーブを設けるもので、カセットでもDolby-B,そしてさらに上級のDolby-Cが存在しました。余談ですが録音技師のヴァンゲルダーはヴァンゲルダースタジオにDolbyのような録音再生のノイズ低減の為の機器を独自に製作して一般カーブに上乗せして使っていたという話があります。

ここで、何故私がテープの話を持ち出したかと言いますと、テープの場合は録音したデッキで再生が可能なのです。要するに録音したヘッドで（同一特性）と、録音したカーブ内臓の回路で再生が出来るということです。この場合は完全に元の信号に戻りますし正しい録音と再生かの判断はすぐに出来ます。私のカセットの経験でもDolbyをかけない状態ですと、録音と再生を別のデッキ（例えばナカミチとソニーとかソニーとDENONなど）で行うとほぼ変わりません（それでも微妙に変わります）が、Dolby-B,Dolby-Cとかけていくと全く違う再生音になった経験があります。もちろん同一機種での録再は全く問題はありません。このように同じカーブでも特性の違う機器での録音再生で音は変わるということです。

何を言いたいかと申しますと、アナログレコードのカッティング後にカッティングヘッドでは再生出来ない、つまりカッティングとは異なるカートリッジでの再生しかできないということです。そしてこのカーブがRIAAに決まっていった時代の再生用の針はモノラル1ミル丸針（25μm）ステレオ0.7ミル丸針（17.5μm）と規格が決まっていましたし丸針しか作れなかった時代です。カッターブレードのエッジは鋭角であったと考えると再生での高域の減衰は明らかです。

こういう録音と再生での物理的な音の違いをどうしたか？ということに関して、かつての優秀なマスタリングエンジニアは再生されたときの音質を考慮した上でカッティングマスターを作成したと聞きます。その中にはこの高域問題はあったと想像します。ひとつの方法として当時のシステムの特性やこの針の問題を考慮して高域を若干持ち上げてカッティングする方法と、もうひとつ、これは全くの私の勝手な想像ですが、ジャケットにはRIAAと書いておいて実際は別のカーブでカッティングする方法も有ったのではないかと思うわけです。RIAAは他のカーブに比べて低域も高域も最もレベル高めに再生されるカーブだからです。・・・これに関しての批判非難は受けます。

では低域はどうなんだ・・・ということになると難しいです。と言いますのもこれこそ好みや部屋の問題で左右されますから・・・。話題のコロムビア録音で低域が膨らむというと私としてはマイルスのカインド　オブ　ブルーのポール・チェンバースのベースの膨らみが思い出されますが、これはコロムビアカーブで聴かれて締まったベースになるのか？・・・です。

ケミ様（K様も）RIAAで再生すると高域がきついというお話があります。私からするとそれはたぶんほぼフラットに調整されたシステムで、確か3ｘ70（楕円の形として短軸ｒｘ長軸R）というレコード溝に接する針の面は現代最高の鋭角に近い針をお使いだと存じますので、それはやはりその通りであろうと想像いたします。その時はきちんとカーブを合わせて聴かれることが正しい再生に繋がるだろうということは同意いたします。

しかし私のように（下記に私のシステムの調整と針を開示します）ちょっと古いシステムで何種類かの特性の針を使って聴き分けた場合それなりに再生できるものだということもお分かり頂きたいのです。

（私のシステム調整）

１．高音は3ｋHz以上は駄々下がりに調整しています。具体的には3ｋHzに比べて10ｋHzで-5〜-6ｄB、20ｋHzで-10〜-12ｄBです。測定位置は試聴位置ですが、私にはこれがフラットに聴こえます。私の耳がおかしいのかと心配したこともありますが、評論家の菅野沖彦氏も同じことを仰っていましたので「これでいいのだ」と思っています。なお調整はCDを何枚も何枚も聴いての調整です。CDだと基本的に出力はフラットなのでこれで調整してアナログはそのシステム調整の条件でアナログ機器のほうで調整しています。

２．低域は元々量感が無いと嫌いなタイプなのと、ビッグバンドやフルオーケストラで同音程でも位相の違う楽器の音の合成音が超低域となる感じを出したくて特に50Hz以下は少し持ち上げています。クラシック好きの方が仰る「地を這うような低音」というところです。これに関しては一関のジャズ喫茶ベイシーの音でビッグバンドが圧巻だったことに感動して「ここまでしてもいいのだ！」と思ってからです。ただそこまですると小編成でも低音が膨らむので上記程度に抑えています。これはスペアナ測定では殆ど出てこない程度です。

３．針に関しては常設でステレオ3種、モノ針1種ですが、サブとしてモノ針をもう1種常備しています。針は全て低インピーダンス大出力タイプでフォノイコのMC入力ダイレクトで使っています。

Stereo　A　　針形状　3ｘ30　現代のワイド＆フラットタイプです。主にクラシック、ロックで使います。

Stereo　B　　　　　　6ｘ50　旧世代のフラットタイプですが、今となっては弱カマボコ特性で主にジャズで使います。

Stereo　C　　　　　　8ｘ18　これもジャズで使いますがStereo Bよりはもう一段カマボコ特性が強いです。

Mono　A　　　　　　　8ｘ40　殆どのモノ盤はこれで使えますが、もう一段古いものは次のMono　Bを使います。

Mono　B　　　　　　　25（1mil）古いモノ盤ではここまで必要なものもありますが常設では有りません。

Stereo CとMono Aはカーブ可変のフォノイコを使っていますが、いずれも古いタイプの針ですので殆どRIAA設定で聴きます。

ここでzappa1993さんが拙宅でマイルスのアガルタの日本盤と米国盤の聴き比べで米国盤の再生がイマイチだったように書かれていますが、私としてはどちらも上記Stereo Bの針で問題なく再生できたと思っていますし、私の好みでは米国盤のほうが音の厚みとグルーブ感があって好きです。zappa1993さんには申し訳ないですが追記させて頂きます。

長くなりましたが以上です。という私ですが何かの折にカーブを切り替えての良い再生は聞かせてもらいたいと思う次第です。